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2017.07.10

第122回志木演説会が開催されました

 2017年7月7日、七夕の日。第122回志木演説会が慶應義塾大学三田キャンパスの西校舎ホールで開かれました。今回は、株式会社和える(aeru)代表取締役の矢島里佳氏に、「自ら仕事をつくるという選択肢~伝統を次世代につなぐために~」という演題のもと、講演を行なっていただきました。

 矢島氏は慶應義塾大学在学中に現在の会社を創業されました。若くして起業されたと聞くと、アイディアを駆使して時代に先行するIT関連の会社を立ち上げたと想像する人が多いかもしれません。確かに「アイディアを駆使した」という点では共通していますが、最先端のテクノロジーで未来を切り拓いていくという会社ではありません。むしろ古き良きもの、すなわち「伝統」を大切にするという切り口にその特徴が見出せます。日本の豊かな未来を目指すべく、先人の智慧に学び、貴び、次世代を担う子どもたちにそれをつないでいく。こうした理念に基いてスタートした会社なのです。

 たとえば「和紙」です。講演のはじめのほうで、矢島氏から志木高生にこんな質問が出ました。「障子を破った経験がある人はどのくらいいるでしょうか」と。ほとんど手が挙がりませんでした。いまの高校生にとっては触れた経験もないのかもしれません。モノが大量生産される時代にあって、職人の手で一つずつじっくり時間をかけて作られる和紙という伝統文化はいまや貴重なものです。その和紙の良さを生かし、生まれてきたばかりの赤ちゃんに和紙で仕立てたボールを贈る。幼少のころから日本固有の和紙に慣れ親しんで育っていくことにより、日本の古き良きものが継承されていくのです。

 長きにわたって日本で大切にされてきた「先人の伝統的感覚」と、「今を生きる人の感覚」。両者が次第に切り離されていく時代の中で、ごま和えの「和える」がごとく、互いの素材の良さを引き立て合い、そして新たなものを生み出していきたい。そんなコンセプトが社名「和える」にもなっているとのことでした。

 こうした話題からはじまった矢島氏の講演は、われわれの持つ既存の会社像や起業に対するイメージをいい意味で次々に裏切ってくれる、ユニークで新しい発想のものばかりでした。そしてその発想には一つひとつに揺るぎない「思想」が根底に備わっているため、拝聴していて心地よい安定感がありました。

 ひとつ例を挙げるならば、一風変わった自社観があります。株式会社和えるは、自分たちの「会社」を育てていくという発想ではなく、ひとりの男の子「和えるくん」を育てていくという捉え方をしているようです。「和えるくん」は創業した父母の想いから生まれ、社員たちは「和えるくん」の兄・姉としてあたたかく見守り、取り引き先も「aeru family」として接しているとのことでした。会社や社員をこのように擬人化することによって、対象が身近な存在として感じられ、考え方もより人間的になると述べられていました。会社やビジネスというとどうしても資本主義的で功利的なものが浮かんでしまいがちですが、発想を少し転じただけで、考え方や接し方までがらりと優しくなれるものなのだと、生徒たちも頷いて聴いていました。

 矢島氏の語り口自体も終始温和で優しく、たいへんわかりやすいものでした。時おり、「いま何に興味があるのか」、「職業は『選ぶ』ものなのか」、「服は捨てるために買うのか」など問いかけの形で語られ、生徒たちもただ聴くだけでなく、自分自身のことと照らし合わせながら聴くことができました。飽きるいとまもなく、有意義な1時間半は早々と終了の時間を迎えてしまいました。

 講演会の最後には「アイディアや本気の気持ちを持っていれば、受け入れられる土壌が日本にはあります。ぜひ挑戦するという気持ちを大切にしてください」とメッセージを残していただきました。質疑応答の時間では、質問した生徒のほうに目も身体もしっかり向けられ、丁寧に答えておられました。その姿が非常に印象的でした。講演会のあとには、質問ができなかった生徒数名が矢島氏のもとに駆け寄って質問を行なっていました。志木演説会では滅多に見られない、珍しい光景でしたが、それだけ矢島氏の講演内容が、はたまたお人柄が魅力的だったという証しになるのではないでしょうか。もちろんそこでも矢島氏は真摯に対応してくださっていました。閉会後、矢島氏から署名入りのご著書2冊が学校に寄贈されました。

―やりたいことをやらない勇気がなかった―

 矢島氏は自身が起業した理由について、こう述べておられました。このことばは志木高生が今後どのような道を選択していくにせよ、あらゆる場面で背中を押してくれる心強いことばとして、それぞれの胸に残り続けていくことでしょう。豊富な経験談をもとに、新たな視点を注入してくださった矢島氏に、心より感謝申し上げます。また矢島氏をご紹介いただいた東京商工会議所のご関係の皆様にもお礼を申し上げます。

 次回の第123回志木演説会は12月を予定しています。

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