志木高の教育目標

慶應義塾の目的

慶應義塾の創設者である福澤諭吉(1835-1901)は、1896(明治29)年11月に芝で行った自身の演説の一節をのちに抜き書きし、慶應義塾の目的を簡潔に示しました。以下に掲げるその文章は、今日「慶應義塾の目的」の名で知られています。慶應義塾の一貫教育校である志木高は、慶應義塾の根本精神である「独立自尊」とともに、その精神を大切にしています。

慶應義塾は単に一所の学塾として自から甘んずるを得ず
其目的は 
我日本国中に於ける気品の泉源・智徳の模範たらんことを期し
之を実際にしては 居家・処世・立国の本旨を明にして
之を口に言ふのみにあらず
躬行実践
以て全社会の先導者たらんことを欲するものなり
以上は曾て人に語りし所の一節なり   福澤 諭吉


試訳

慶應義塾は、どこにでもあるような学校の一つとなることで満足するところではありません。
慶應義塾は、義塾で学ぶ塾生や塾員が、日本における「気品の泉源」・「智徳の模範」となることを目指す学塾です。それを具体的に言うならば、塾生・塾員が、家庭を安定させ、世の中で暮らしを立て、さらには国の独立を保つことの本来の意味を明確にしたうえで、それをただ口にするだけではなく、自ら行動に移すことで、積極的に社会を引っぱってゆくような人物となってくれることを願っているのです。

語句

「気品の泉源・智徳の模範」
慶應義塾の塾生(在学生)・塾員(卒業生など)が目指すべき理想像です。このうち「気品」について福澤は、それがcharacter(品性)であり、正しい心によって養われた広く豊かな気、すなわち「浩然の気」(『孟子』公孫丑篇上)であり、かつ高尚なものであると説明しています。しかし、これはなにも特別な人しか身につけられないものではありません。むしろ、われわれ一人一人が、日常生活のうえでの行動の規範として身につけることが期待されているものです。

「居家」............本来は「家にいること。また、住んでいる家。すみか。」を指す語ですが(『日本国語大辞典』)、ここでは、家庭を安定させることを意味すると考えられます。

「処世」............世の中で暮らしを立て、生活してゆくこと。

「躬行実践」......自分で実際に行動すること。

〈参考文献〉  西川俊作・山内慶太編『福澤諭吉著作集』第5巻 学問之独立 慶應義塾之記
(慶應義塾大学出版会、2002年)


「独立自尊」

福澤諭吉遺墨「独立自尊」

「独立自尊」とは、むやみに権力に従うのではなく、自ら考え、自分の責任において物事を判断し行動すること、またその際に、自分をおとしめず、同時に他の人々のことも尊重し、自分と同じように大切にすることを意味する言葉で、慶應義塾を支えてきた根本精神です。福澤諭吉が弟子とともに作成した『修身要領』(1901年)には、「心身の独立を全うし、自らその身を尊重して、人たるの品位を辱めざるもの、これを独立自尊の人と言う」とあります。 

志木高の教育目標

「慶應義塾の目的」・「独立自尊」の精神に基づき、志木高ではさらに次の四つの教育目標を掲げています。この教育目標は、1968(昭和43)年から明記されているもので、志木高生に対する建学の精神の涵養を目指すうえでの重要な指針となっています。

本校の教育目的は福澤諭吉の建学の精神に基づいた、慶應義塾大学に進学する前段階としての高等普通教育を行うことにあるが、そのために、本校教員は日頃次の四つの教育目標に向かって努力している。

1.塾生としての誇りを持たせること
独立自尊の気風を養い、自主性のある、品格の高い、明るい塾生となる教育を行う。
2.基礎的な学問の習得
将来、社会の各分野で立派に活動するため、また本塾大学に進学する前段階として基礎的な学問を習得させ、学問・研究の必要性を知らせるとともに、自主的に学習するように指導する。特に大学一般教育課程に応じた学習指導に留意し、学力の全体的向上をはかる。
3.個性と能力をのばす教育
現在の生徒数による教育の長所を生かし、教員と生徒との人間的接触につとめながら個性と能力をのばす特色ある教育を行なう。
4.健康を積極的に増進させること
ただ健康管理に留意するのみでなく、各人に適したスポーツに参加することによって積極的に健康を増進させる。