大戸雄真君(2013年3月卒/文学部2年)

ohto01.jpg高校時代、とくに印象に残っている授業は何ですか。

どの授業についても言えることですが、志木高の授業に共通した特徴は、教えている先生がとても楽しそうに教えていらっしゃるということです。たとえば、「現代社会」という授業でマックス=ウェーバーが取り上げられたのですが、その時の先生の笑顔が、僕は今でも忘れられません。いつも楽しそうに、「ここが面白い、ここも面白い」と語っている姿を見て、こんな風に学問と向き合うことができるんだと思いました。そこには、受験勉強では感じられない楽しさ、純粋な面白さというものが潜んでいると感じました。

また、2年生の時に担任だった小澤先生は、毎週のホーム・ルームで、漫画、写真、文章など、何らかのテーマになるものを配布して、それについて考えたこと、思ったこと、感じたことを文章にして提出させるという課題を与えてくださいました。自由参加型なので書きたくない人は書かなくてもいいんですが、僕を含め、文章を書くことに積極的な生徒何人かが提出すると、翌週のホーム・ルームでそのコピーがクラス全員に配られました。そうなると、普段はプリントなどあまり読まない生徒も、クラスメイトが考えたり感じたりしていることには興味があるのか、熱心に読んでくれました。書いた生徒は自分の文章が人に読まれる喜びを感じ、読んだ生徒はそこから刺激を受けて「次は自分も何か書いてみよう」という気持ちになり、最終的にはクラス全体でこの課題に取り組むようになっていました。

ohto02.jpg大戸君は、志木高3年生の時にIPO(International Philosophy Olympiad, 国際哲学オリンピック)日本組織委員会主催の「日本倫理・哲学グランプリ(2012)」という、栄誉ある哲学エッセイのコンテストで、銀賞を受賞されました。いつごろから、どのようなきっかけで哲学に興味を持つようになったのですか。

僕がまだ中学時代、受験勉強をしている時に、志木高の過去の入試問題の中で永井均さんが書かれた『<子ども>のための哲学』という文章に接しました。そこには、道徳についての疑問が書かれていましたが、それはまさに僕が小さい頃よく考えていた問題で、その同じ疑問が、大人によって学問として深く追究されているということにとても驚きを感じて、哲学そのものに興味を持つようになりました。

その哲学への興味は、志木高入学後、どのようになりましたか?

高校の3年間も、そして文学部の学生となった今も、哲学への興味は変わりません。大学は哲学専攻ですから当たり前ですが、高校時代にずっと変わらず興味を持ち続けていられたのは、3つの恵まれた環境があったからだと思います。

1つ目は仲間です。僕は一般受験で志木高に入学したのですが、1年生の時に慶應義塾中等部出身のある友人と出会いました。彼は、いわゆる高校受験のための「勉強」はしていませんが、「学問」をしてきている人だと僕は感じました。それから彼と仲良くなって、永井均さんの本をテーマにいろいろと語り合ったり、他の哲学の話をして、共に学んでいくことができました。

2つ目は先生です。第2学年の時に出逢ったある先生は、ご専門の文学のみならず、美学や哲学など幅広い知識と教養と探究心をお持ちの方でした。その先生によって、自分の中にあった哲学への関心がうまく引き出していただけたと思っています。

3つ目は学外の活動です。僕は、仲間にも先生にも恵まれてはいましたが、もっと視野を広げるため、学外のカルチャースクールで哲学の講座を受講してみたりもしました。また、インターネットで「日本倫理・哲学グランプリ」の情報を見つけ、論文を書いて応募したりもしました。それらのおかげで、より一層、思索を深めることができたと思っています。

学外の情報にも積極的にアプローチする姿勢、それを実行に移す行動力は素晴らしいと思います。大戸君をして、そういうものへと突き動かしている原動力は何ですか?

それは志木高の「不親切さ」だと思います。志木高は、自由放任主義というか、生徒は野に放たれている状態なので、何をしてもいいし、何もしなくてもいい状態です。そういう場だからこそ、僕は自分で考えて自分から行動していく能力が身についたんだと思います。僕自身の中学時代の経験から言っても、先生がいつも情報を与えてくれる環境、何から何まで世話を焼いてくれる環境だと、人は自分の頭で物事を考えません。だからこそ志木高は、あえて「不親切」にしてくれているのだと僕は思っています。そうすることによって、自分自身で道を切り拓いて行く力が確実に養われるはずです。大学生や、まして社会人になったら、先生は何も教えてくれません。ですから、高校生のうちにそういう力を身につけておけば、これからの人生でかなり有利になると思っています。

中学時代に芽生えた哲学への興味を順調に育み、現在は文学部人文社会学科倫理学専攻の学生としてさらに充実した研究生活を送っている大戸君ですが、進路選択で迷いなどはなかったのでしょうか。

僕自身に迷いはなく、担任の先生も文学部進学を応援してくれたのですが、実のところ、他の学部への進学を勧めていた両親との間には葛藤がありました。そこで僕は、高校1年の時から「どうやったら親を説得できるか」を考え、慶應義塾大学の文学部にはどんな教授がいて、どんな研究をしているのかを調べ、その先生方の書かれた本を読むなどして、自分の熱意が伝わるようにしました。そういう努力の積み重ねがあり、そして3年時に「日本倫理・哲学グランプリ」で銀賞を受賞したことが最終的な決定打となって、ついに両親も「これだけの情熱を持って学問に取り組んでいるなら、認めてあげよう」という気持ちになってくれました。

ohto03.jpgなるほど。学部選択に関して、かなり早い段階で自分の意志を固め、計画的に行動していたんですね。でも、すべての生徒が大戸君のように進路を決められるわけではないのが実情で、もし、あなたの友人や後輩が進路選択に悩んでいたら、どのようなアドバイスをしてあげますか?

実は、僕自身も、「自分が一番やりたいことができる学部はどこか」と考えたとき、文学部にすべきか法学部にすべきか迷った時期はありました。そのとき僕が取った行動は、「まず自分で法学を学んでみよう」と思い、法学の入門書を読んでみて、哲学と法学を比較するというものでした。そして、自分がどちらに向いているか、どちらがより好きなのかを改めて考えた結果、僕は法の実務的なことより法そのものに興味があること、「法哲学」という学問分野は、法学部よりも文学部で扱われていることなどを知り、最終的に文学部進学を決意したのです。

ですから、どの学部に進むか迷っている友人がいたら、その学問分野では、どのような人が、どのような研究をしているのかを本で読むなり、志木高の先生に相談するなりして調べるよう、僕は勧めるでしょう。自分の将来をより具体的に思い描くことは、価値があると思います。

所属学部・学年は2014年9月現在

 

 

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