SGLI(Student Global Leadership Institute)2016

世界の高校生と共に学び活動した2週間・・・SGLI夏季集中プログラム

 SGLI(Student Global Leadership Institute)はプナホウスクールが主催するグローバルリーダー育成のプログラムであり概要は以下のようなものである。(国際交流の項目も参照)

  1. SGLIには米国に加えてアジア(日本、中国、韓国、インド)欧州(イギリス、スイス、スウェーデン、デンマーク)中東(ヨルダン)から26高校82名の高校生が主催者のプナホウスクールからの招待を受けて参加している。
  2. 毎年テーマが設定されており、今年のテーマは"Conservation(保存、保全)"である。これまでに「エネルギー」「健康」「食物」「都市」「平等」などがテーマとして設定されている。
     SGLIではソーシャルアクションプロジェクト(地元のコミュニティに前向きな変化を起こす社会的に意味のある活動)が重要である。その年度のテーマに基づいてプロジェクトを企画立案することと実行に移すことが各学校のチームには求められる。このようにプロジェクト活動を軸としてリーダーシップを育成するというやり方はいかにも米国らしい。
  3. 7月後半にはSGLI参加者は自分たちが立案したプロジェクトの案を持ってハワイに集合して寝食を共にして2週間の夏季集中プログラムに参加する。これはSGLIの中核をなすプログラムである。
  4. ハワイでの集中プログラムを終えて地元に戻ると参加者たちはWebを通して連絡を取り合いながらプロジェクトを実行に移しその結果を報告することが求められる。
  5. SGLIでの活動は4月にWebを通した自己紹介に始まり、課題提出、夏季集中プログラム参加、地元に戻ってからのプロジェクト実行・・・・と続くので実質的な研修期間は9ヵ月近くに及ぶ。日本ではなかなか体験できない貴重な研修の場である。同時に英語力、社会問題への関心、プロジェクトの企画力・実行力、積極性、協調性など多くのものが求められるタフなプログラムでもある。

 今年SGLIに参加している3名の生徒(高綱君、佐藤君、松田君)は夏休みが始まったばかりの7月16日の夜に成田を出発してこの夏季集中プログラムに参加した。

SGLI夏季集中プログラム概要と日程
参加した国
参加した高校数
生徒数
米国9、日本5、韓国1、中国4、インド1、ニュージーランド1、イギリス1、スイス1、デンマーク1、スウェーデン1、ヨルダン1。
参加高校数26校、生徒数82名。
会場など メインとなる会場はプナホウスクール図書館のオープンスペース。
ハイキングやボランティア活動ではオアフ島の様々な場所に出かけた。
7月18日(月) 参加生徒を3つのグループに編成し自己紹介ゲーム、自己紹介プロジェクト、自然観察のミニプロジェクトなどを順番に行う。
7月19日(火) 午前中ハワイ大フレッチャー教授講義「温暖化と異常気象」質疑応答と討論。
午後はアジア太平洋安全保障研究センター訪問、生物多様性のディベート。
7月20日(水) 朝4:30に出発。オアフ島東部のマカプウ・ポイントにハイキング。
その後はクリオウオウビーチに移動。NPOのスタッフからの説明を受けて外来種の海藻を取り除く作業にボランティアとして参加。
夜はプナホウスクールでコミュニティナイト(講演会)。
7月21日(木) ミニプロジェクトの発表。ローカルプロジェクトについてメンターと相談。
なお引率教員は21,22,25,26日の4日間は「グローバル教育」をテーマとした教員向けワークショップに参加。生徒とは別スケジュールとなる。
7月22日(金) フィールドトリップ(幼稚園などでボランティア活動)。
校長先生宅で開かれたルアウ(公式パーティー)にドレスアップして参加。
7月25日(月) グループで行うゲーム、プロジェクト発表の準備、夜はタレントショー。
7月26日(火) アレン・村林氏による講演、プロジェクトの発表準備。
7月27日(水) 各高校チームによるプロジェクト発表会、午後はグループ対抗ゲーム。
7月28日(木) 各高校チームによるプロジェクト発表会。
7月29日(金) まとめ。夕方からカイマナビーチで最後のディナー。

 日程表に示したように非常に多彩な活動が盛り込まれていた。なおSGLIの引率教員は21日~26日まで教員向けワークショップTEACHERS STRANDへの参加を求められたこともあり生徒の活動の様子を一日中見ることができた日は限られていた。

 最初の3日間の研修で感じたことはグループワークが重視されていることである。このグループは、所属する高校、国籍、母語ができるだけバラバラになるように編成された"混成グループ"である。この混成グループでミニプロジェクト、ゲーム、ボランティア活動、フィールドトリップやディベートを行うのである。SGLIの責任者チャイ・レディ先生も「国籍や母語が同じ生徒たちで固まらないように。母語や国籍の異なる生徒と話しなさい」とミーティングで何度か強調していた。

 また講演においては生徒と講演者との双方向的なやり取りが重視されていた。19日(火)ハワイ大学フレッチャ-教授による講演「地球温暖化と異常気象」では、講演の途中で教授から次々と問いが投げかけられた。「温暖化は何をもたらすか」「温暖化がもたらす問題にどう対応すれば良いか」などの問いである。すると会場の各テーブルですぐに活発な議論が始まり、グループごとに発表が行われる。講演が終わった後も何人もの生徒が教授を囲んでしばらく質問や議論を行っていた。この日の午後にはアジア太平洋安全保障センターを訪問した。ここでは「生物多様性」についてグループに分かれてディベートを行った。私が見ていたグループでは生徒のひとりがすぐにモデレーター(司会者)を引き受けてディベートが始まり途切れることなく議論が続いた。さらにこの議論を手際よくまとめて報告する生徒も現れた。議論の方向性や発言内容に時々疑問符がつくところはあるにしても生徒たちの積極性と能力の高さは立派なものである。参加している高校生たちはあらゆる面で積極的、活動的である。未来のグローバルリーダーとしての資質の高さを感じた。

 翌20日には早朝4時半にバスでハワイ大学を出発してマカプウ岬に向かった。マカプウに着いてからはネイティブハワイアンの方の案内で1時間かけて山道を歩いて日の出前に山頂にたどりついた。そしてネイティブハワイアンの歌「E Ala E」を斉唱して日の出を迎えた。単なるハイキングにとどまらず「伝統文化の保存」と結びつくイベントでもあった。午後にはビーチでNPOスタッフ指導の下に外来種の海藻を取り除く作業に従事。「ハワイ固有の環境の保全」をボランティア活動を通して体験した。さらに夜にはプナホウスクールで"Conservation"をテーマにいくつかの講演を聴いて質疑応答を行った。このように最初の3日間は研修プログラムの内容が毎日大きく変化していた。

 22日(金)の夜にはルアウ(ハワイスタイルの公式パーティ)が催された。最初の1週間の研修が終わった節目として催されたもので生徒、引率教員、SGLIスタッフに加えてプナホウスクールの関係者も参加する大人数のパーティだった。思い思いにドレスアップした生徒たちはリラックスして楽しそうに過ごしていた。

 さて引率教員向けのプログラム"TEACHERS STRAND"が終了した26日の午後に生徒たちの様子を見に行くとすでに翌日(27日)、翌々日(28日)に迫ったソーシャルアクションプロジェクトの発表会に向けて最後の準備に夢中になって取り組んでいた。各高校チームはメンターと相談したり他の高校の生徒と話し合ったりしながら準備してきたプロジェクトをより良いものに仕上げることに一生懸命である。発表会当日には引率教員、生徒に加えてメンターも駆けつけるのでこの発表会はプログラムの最後を飾る重要イベントになるのである。27,28日の両日に行われた発表会では各高校のプロジェクトの発表を聴くことができたがそれぞれの学校や国の文化や背景を反映していて興味深いものだった。各高校の発表以上に私の関心を引いたのは当日発表の割り当ての無い高校チームには他校の発表を聴いてフィードバックペーパーを書くという役割が与えられたことである。フィードバックペーパーとはプロジェクトの内容と発表の仕方について観点別に5段階で評価を記入する用紙のことでこの用紙には観点別にコメントも記入できる。各高校が発表を終えると評価が書き込まれたフィードバックペーパーが次々に届けられる。中にはコメントがびっしり書かれているペーパーもある。こうした役割があると聴いている側の生徒もお客さんではいられない。この仕組みのおかげか7分間の発表に対して質疑応答が20分にも及ぶ場合がしばしばあった。

 29日の夕方にはすべての日程が終了しカイマナビーチで最後のディナーになった。ディナーが始まる前の高校生たちは2週間前に初めて顔を合わせたとは思えないほど和気藹々とした様子でゲームに興じていた。30日にハワイ大学の学生寮をあとにする時にも生徒たちが別れを惜しむ姿があちこちに見られた。ハワイという多様性に満ちた場所で意欲的な世界の高校生と共に学び活動し、また意見を交換したという体験は本校から参加した3名の生徒にとっても刺激的で得がたい体験になったようである。もちろんSGLIはこれで終わりではない。地元に戻ってから発表したソーシャルアクションプロジェクトを実行に移すという次の課題に生徒たちは向かい合って活動しなければならない。

 SGLIは本校の生徒にとって様々な面でハードルの高いプログラムであることは確かである。SGLI参加者は11ヵ国からやって来るので参加する高校生の母語や生まれ育った文化などは多様である。このようなグローバルコミュニティにおいては互いに説明し合うこと、わからなければ質問することが意思疎通の基本である。積極性やリーダーシップが大いに求められる。これが実感できることはSGLIの大きな魅力である。このプログラムに興味を持つ本校の生徒諸君は是非前向きにチャレンジして欲しいものである。

引率教諭 山田 達之輔(理科)

SGLI2016を振り返って(参加生徒より)

 Punahou Schoolのプログラムは毎年テーマが決められており、今年は"conservation" 「保存」というテーマだった。大まかには「文化の保存」と「環境の保存」の2つに絞られ、それについて様々なアクティビティが用意されていた。そのテーマとは別に私にとってのPunahou悪戦苦闘の日々の意義を帰国してから考えていた。

 まず私はMini projectという時間の「実験と発表」について述べたいと思う。私がこれを取り上げる理由は、英語を母語としない日本人である私が唯一センターポジションを確保し、イニシアティブを獲得出来たアクティビティであったからだ。このメンバーはHanan/ヨルダン、Sam/ニュージーランド、Kiah/スイス、Prem/インド、Annesofie/デンマーク、Viktor/中国と私という7人だった。内容はグループごとにPunahou school内の植生について生態系の保護という観点から実験を行い発表する。私たちのグループはグリーンピーマンの3つの苗に含まれる有機物の量を比較するという実験を求められた。始めるにあたってイニシアティブを取ったのはKiahだった。私がそれまで所属したグループでは基本的に白人系のアメリカ人か白人系ヨーロッパ人がイニシアティブを握っていた。このグループでも同様でKiahは白人系スイス人である。そして当初、私と中国人であるViktorに意見を求められることは無かった。しかしここで私に天使が舞い降りた。この実験について全員がお手上げだったのである。志木高の実践主義の化学の授業が活きた瞬間だった。感謝である。そこからは私がイニシアティブを取った。憧れのセンターポジションである。測定原理はEC測定とほぼ同じで、電気が純水ではなく塩類(肥料)が溶けた溶液を通ることを利用したもので、この電気伝導率は塩類の量に比例する。これを比色により栄養量の過不足を確かめれば良いのである。みんなが英語力の一番劣る私の話に耳を傾け、指示を汲み取ってくれた。結果全ての生徒のフィードバックを終えた後、先生に「科学的根拠を重点に様々な関連実験について瞬時に出せる知識についても素晴らしい。」と高評価を頂いた。

 PunahouのChai先生が「英語は第一の言語でも第二の言語でもない。」とおっしゃられていた場面があった。有り難いお言葉であったが、しかし言語だけが様々な障壁になっている理由ではない。ルームメイトのAndrewは白人系アメリカ人であり米国有数のデイスクールに通っている。彼との距離が一気に縮まったのも上記のアクティビティが行われた晩である。彼が突然私に将来の進路を尋ね、そして偶然にも彼と同じ志望であったことから会話が弾んだ。彼の志の動機が私のそれと酷似していたのである。その時に「このまま自分は自分のまま志を邁進すればよいのだな。」と肩の力が抜ける思いがした。

 そして今、私はリオ五輪の女子バトミントンダブルス決勝を見終えてこれを書いている。デンマークとの決勝となったが、試合開始直後に携帯が鳴った。先のアクティビティで友達になったデンマークのAnnesofieからである。試合中ずっとSNSでやり取りしながら観戦していた。見終わって悔しがるAnnesofieとのSNSを眺めながらふと思った。Punahouの日々の意味はきっとこれだ。人種だったり、言語だったり、思考形態だったり考えさせられた事ぶつかった壁は山ほどあったが、越えてしまえばこの手に残ったのは貴重な経験と多くの友達だ。私のPunahouの意義はそれに尽きる。

 最後に、このかけがえのない財産を与えて下さった志木高の先生方、2週間にわたって引率して下さった山田先生、Punahouの先生方に心から感謝したい。

3年 高綱 馨

 7月16日から2週間、ハワイで行われたSGLI(student global leadership institute)プログラムに参加しました。このプログラムはグローバルなリーダーの育成を目的としており、研修では様々な国の高校生とディスカッションやグループワークを行います。

 SGLIでは毎年テーマが設定されており、今年のテーマはconservation(保全、保護)であり、研修内容はこのテーマに関わるものでした。環境や文化のconservationに関する専門家の方からお話を聞きつつ、その他にも様々な活動に参加しました。具体的にはハワイの伝統的な歌であるealaeの学習、プナホ高校内の自然環境の観察とそれに関する簡単なプレゼン、生態系を壊している外来種の植物を抜くボランティア、同じく外来種の海藻を取り除くボランティアなどです。

 SGLIではこのような活動を通して学んだことを生かし、学校ごとに母国に帰ってから何かしらのプロジェクトを行わなければなりません。今回はconservationがテーマなので環境や文化の保護に関わるプロジェクトを日本で行うことになります。私たちは日本文化の保護にスポットを当て、その中でも仏像についてプロジェクトを行うことにしました。SGLIへ行く前に原先生と仏像についての下調べを行い、その結果物質的な保護はできているものの若い世代の仏像への認知度や関心が足りないことが問題であるとわかりました。どのようにこの問題に対して取り組むかを考えていたところ、プナホの小学校では小学3年生の時に1年間ハワイの文化のみを学習するのだと知りました。印象に残りやすくするために小学校の頃から伝統文化に関する教育を行うことは重要なのだそうです。そこで私たちも日本の小学生に対して仏像を面白く教えられないかと考えました。しかし、日本の学校はアメリカなどと比べるとこのようなことに対して制約が多く、実現させるにはまだまだするべきことが沢山あります。これからまた3人でどのようにプロジェクトを成功させるか考えていきます。SGLIはただハワイに2週間国際交流に行くのではなく1年間を通したプログラムなのです。

 ハワイでの2週間は私にとって貴重な体験でした。まずはプロジェクトの成功に尽力しつつも、今後はこの体験を生かしていきます。

3年 佐藤 諒