2018年12月17日、三田キャンパス西校舎ホールにて「第125回 志木演説会」が開催されました。今回登壇されたのは、慶應義塾大学教職課程センター副所長で教授の佐久間亜紀氏で、「共に生きる社会を目指して―私の失敗談から」という演目でご講演いただきました。

 この世の中を見渡せば、十人十色、いろいろな人がいるというのは周知のとおりです。このことに異論を唱える人はいないでしょう。しかし、人の「性」のことについては、この「十人十色」という見識が成り立っていないことが多いのではないでしょうか。こうした問題について、佐久間氏はご自身のエピソードを踏まえ、具体的にわかりやすくお話しいただきました。

 長い間、この世には「男」と「女」の(生物学的に)2種類しかいないことになっており、いまだにこの見方は続いています。ところがジェンダー研究が進んできた昨今、この2種類に必ずしもあてはまらないLGBTの人たちが世界各国およそ13人に1人、7%いるという報告がなされてきました。いまや「性」を〈男・女〉二元論では語れないのです。しかし現状は、固定観念や文化的慣習などによって、あらゆるところでこのような人たちが排除・無視されている社会構造になっています。つまり、社会構造の内側に「差別」という問題がはらんでいるということです。このことについて、佐久間氏は「そもそも、性は多様」なものとし、さらに「そもそも、世の中はスペクトラム」と印象的なフレーズで論じておられました。同様な問題として、〈健常者・障害者〉〈日本人・外国人〉の例も挙げておられました。

 佐久間氏は「差別する人間にはなりたくない」と語り、大事な要点として、次の三つを示されました。(1)自分も無意識に差別に加担していると意識する。(2)差別はなくならないが、苦しむ人を減らす努力はできる。(3)いつ自分が少数派になるか、わからない。

 今日の講演内容は、志木高生にとって、普段あまり意識しない問題、というより今までずっと意識してこなかった問題かもしれません。しかし、そうした人たちこそ、佐久間氏の指摘する「知らない」「考えたこともない」多数派に陥ってしまうものだと思います。その意味においても、今回の講演は「無意識を意識」し、「見識を拡げる」絶好の機会になったといえるでしょう。

 演題のとおり、「共に生きる社会をめざして」いくには、互いを認め合うところからはじめなければなりません。そのときに大切にしたい「世の中はスペクトラム」という視点を授けてくださった佐久間氏に、この場を借りて、感謝を申し上げます。

 佐久間氏の講演のあとは、恒例の3年選択授業「芸術A」の合唱、SGLI成果報告、そしてオーストラリア交換留学生の自己紹介とコント、そして髙橋校長が佐久間氏の講演の大事な点に言及され、終了となりました。佐久間氏は最後まで残ってくださり、生徒たちの発表を鑑賞しておられました。そのようなところにも氏の温かなお人柄が出ていたように思います。ありがとうございました。

 次回の志木演説会は2019年7月を予定しております。