2019年7月17日、三田キャンパス西校舎ホールにおいて、第126回志木演説会が開催されました。今回は、慶應義塾大学環境情報学部 准教授の大木聖子氏を講師にお迎えし「災害科学:人・社会・地球との対話」という演題でご講演いただきました。

 マグニチュード9、最大震度7、最大津波高40m。2011年東北地方太平洋沖地震は生徒たちの記憶に刻まれています。はじめに大木氏がなぜ地震学を志したのかお話しされました。そのきっかけになったのは高校生の時に起きた阪神・淡路大震災。その日の朝、テレビをつけると神戸で大地震がありました。ところが普段通りに学校に行き、授業を受け、帰宅すると母の作った夕飯を食べている。一方、テレビには今朝の地震で起きた火災の被害が放送されていて、そこには自分と同じ年の子ががれきの下敷きになっている... それを見たとき、地震学を勉強しよう、そして多くの命を助けたい、その思いで大学、大学院、そして海外でも研究を続けられてきたことを、まるで昨日のことのように語られていました。

 ご専門である地球物理学(地震学)の一端を、簡単な実験を交えながらわかりやすく話してくださいました。見えない地球の内部をどのように調べるのか。演台に並べたコップに、水、空気、炭酸水を入れ、目隠しをする。そしてコップをたたく音だけを聞き、その中身を当てる。実際に先生がマイクをそれぞれのコップにあて、その音を生徒たちが聞き中身を予想する。参加型クイズの形式に、生徒たちは真剣に考えていました。正解は空気のコップは響くが、水のコップは響かない。炭酸水のコップはもっと響かない。このように、地球の内部を知る地震波トモグラフィの原理を簡単な物理の実験で説明されました。

 研究を進めるかたわら、気仙沼の中学生に地震学を易しく教えたことがあったそうです。その半年後、2011年東北地方太平洋沖地震が起きました。彼らは無事だっただろうか... いくら地震学を勉強したとしても、それで人を救うことはできない、私が地震学を志した理由は多くの命を助けたいことだったのに... と自分を責めた時期もあったそうです。こうして出した結論が、地震学だけでは人を救えないということ。

 現在、南海トラフではM9クラスの巨大地震が起きるといわれています。このとき最も高い津波が予想されているのが、高知県の土佐清水市です。この予想が出た当初、地元の方に聞き取り調査をすると、多くの方が諦めムードで返答していたそうです。大木研究室では、学生と地元の小中学生とともに、もし地震が起きて津波がやってきたらどうやって助かるのか、他人事ではなく自分の問題としてとらえる活動を地道に行っています。中学校の文化祭では、それを劇にして発表し地元住民に訴えかけました。その甲斐あって、今では多くの住民が巨大地震や大津波を自分の問題としてとらえるようになったそうです。

 志木高生もこの講演を聞いて防災に対する意識が少し変わったのではないでしょうか。それは講演を聞きながら、隣の生徒とその内容をあれこれと話しながら参加していたからです。大木氏の言葉を借りると、自分の知っている文脈に乗せて、この問題を理解しようとしていたからです。

 次回の志木演説会は2019年12月を予定しております。