2020年12月11日(金)、第129回志木演説会が開催されました。第128回志木演説会に続き、本校体育館において、三密回避などの感染対策をとりながら、学年ごとに分かれて三度、ご講演いただきました。

 今回は、アジア太平洋戦争末期、マーシャル諸島で戦死(餓死)した父を持つ男性の慰霊の旅に同行したドキュメンタリー映画「タリナイ」(2018)の監督・大川史織氏を講師にお迎えしました。大川氏は本塾法学部政治学科卒、同映画および編著書『マーシャル、父の戦場――ある日本兵の日記をめぐる歴史実践』(2018)によって、山本美香記念国際ジャーナリスト賞・奨励賞を受賞されています。

 11月下旬、まず生徒たちはオンラインで「タリナイ」を視聴し、感想や質問を監督に文章で伝えます。大川氏は、事前にその膨大なコメントに目を通したうえで、演説会当日、1年生には「自分のことばで戦争について考える」、2年生には「戦争の伝え方を考える」、3年生には「戦争映画の届け方を考える」という連続性のある異なるテーマで、生徒のコメントを引用しつつ問いを開くといった双方向性を大切にしながら、それぞれ40分程度のお話をされました。講演後の質疑応答の時間も、学年ごとに設けていただきました。

 国際色豊かだった高校での刺激や後々まで続く親友との絆、平和活動への参加を通して抱いた思い、高校時代にマーシャル諸島共和国を訪れた時の驚き、大学卒業後にマーシャルの日系企業で働き始めてから映画完成に到るまでの長い道のり、様々な縁など、大川氏は、自分自身の貴重な体験と出来事、そして遠くて近い戦争をめぐる映画制作にまつわる繊細な意図や工夫について、マーシャルとはなかなか接点のない生徒たちにもわかりやすく伝えてくださいました。そこからは、微かな違和感を大切にし、少数の声や不協和音の複雑さを掻き消したりしない制作態度が浮かび上がります。現在では決して身近とは言えなくなっている戦争の記憶といかに関わって継承し、自国からだけではない視座で戦争と平和を捉え直していくのか。大川氏の真摯であると共に希望とユーモアに溢れた言葉から学ぶべきことは、多くあったのではないかと思います。高校時代にクラブ活動を途中で辞めて以来、自分は「永遠の帰宅部」として活動を続けているという強く印象に残るご発言もありました。

 大川氏のご講演は、多様な国や地域の言語と文化に触れる機会があり、これから学部選択・進路選択をしてそれぞれの足場から戦争と平和について考えていく本校生徒たちにとって、とても貴重なものでした。

 次回の第130回志木演説会は2021年7月を予定しています。