9.志木の森ツアー

ようこそ、「志木の森」へ

志木の森ツアーは15年を超える歴史を持ち、志木高生にとって貴重な森林体験学習の場として引き継がれてきました。2013年度からは、塾内一貫教育校の皆さんも参加できるようになりました。

shikimori001.jpg人々は昔、森から得られる木というものを身近な燃料、または資源として用いて生活をしていました。しかし、石油などを代表とする化石燃料やコンクリートなどといったものが普及すると共に森は人々の注目から外れ、中には放置される森なども出てくるようになりました。やがて、世界規模で「地球温暖化」という言葉が出てくるようになると、植物の光合成などの働きに注目が集まり、森の役割が見直されつつあります。

森は、資源や燃料としてのエネルギーだけでなく、ある時は人々の憩いの場となり、ある時は動物たちの住処となり、またある時は栄養のたくさん詰まった豊かな水を、川が伝えて、海に提供するなど、私たちの自然に依拠した生活になくてはならないものなのです。

この3泊4日のツアーは、そんな森について、普段の生活や授業では触れることのない、実際の森の現状や、林業家の目で捉えた木のさまざまな魅力について学習し、また、純粋に自然の中で活動することで知ることができる森の良さ、というものにほんの少しでも関心を持ってもらうことが目的です。

また、旅行中には熊野古道をハイキングし、伊勢神宮や瀧原宮にも参拝し、日本人の信仰の原点を知るというのもこのツアーの目的の一つです。

と、ここまでかなり堅苦しい説明が続きましたが、とにかく! 一番の目的は参加者自身が自分から進んで楽しむことです! ずっと話を聞くだけではなく、実際にやってみる、ということを多く取り入れたいと思っています。森を含めた自然について知って、ちょっとでも関心を持っていただけたら、それがこのツアーの大成功を意味することになると思います。

志木の森

「志木の森」は、「里山」が三重県度会郡大紀町(旧大宮町)の大宮中学校のある長者野(はぶがの)、「奥山」が多気郡大台町の七保峠にあります。「深山」とは奥山のことで、「みやま」と読みます。その歴史を振り返ると、1994(平成6)年に志木高OB(11期生)の吉田善三郎さんから所有する森の寄贈の提案があり(鐵野善資校長・当時)、翌年の夏に教員4名が現地視察を行い、志木高の校外学習に生かすことで動き始めました。1995(平成7)年3月27日に長島昭常任理事も参加されて奥山で植樹祭が行われ、1996(平成8)年8月に、初めて「志木の森ツアー」がOB・学校主導で始まり、1997(平成9)年3月には、鳥居泰彦塾長(当時)も参加されて、新しく加わった「里山」で植樹祭が行われました。この時、奥山に「深山」、そして近くの山に「里山」という名前が付きました。当初は生徒の参加は生徒会の役員の数名でしたが、1997(平成9)年に「慶應志木の森運営委員会」が生徒会の中に発足し、生徒が企画し運営する「志木の森」に発展していきます。

噺野:はなしの

shikimori002.jpg「噺野:はなしの」は素敵なログハウス仕様のコテージです。人々の住む所には「話し」が生まれ伝承されていきます。ですからここは「語らいの里 噺野」と名付けられています。私たちの活動の拠点です。その里のある場所は伊勢神宮と密接な関係(別宮)のある滝原宮ゆかりの土地です。里はもともと、「さ=大切な」「と=所」、つまり「大切な所」という意味でした。滝原宮は伊勢神宮よりも古いのではないかと言われている、日本人の魂の故郷です。そこで「志木の森」の活動が行われるということに、不思議な魅力を感じませんか。

里山:さとやま

「里山:さとやま」は人々の生活と密接に結びついた、近年特に注目を集めている自然環境です。志木高では「志木の森」の始まりから、いろいろな種類の照葉樹を植えて育ててきました。それらは雑木として扱われてきたのですが、その見方は変わらなければなりません。

なぜなら、雑木林である里山では、葉は落ちて堆肥(たいひ)になって畑に施され、作物を豊かに実らせます。株断ちをすれば、その株は住むことと食べることをしっかりと支えるための火力エネルギーである薪(たきぎ)や、炭焼きをすれば上質な炭となります。里山では山菜やキノコや栗が採れるし、また、鳥や虫たちが安心して生きていくための住まいにもなります。

shikimori003.jpgそのような豊かな里山の自然環境や生態系を知ることが、私たちにとってはとても大事なことなのです。「志木の森」では、里山の手入れはもちろんのこと、プロット調査といって、単位区画の植生調査や標本づくりをずっと続けてきました。

しかし、最近は野性の鹿が増えて、木々の新芽を食べてしまい、ずいぶんダメージを受けてしまいました。そこで、鹿よけの柵を巡らして里山を保護しています。春のプログラム(3月)から夏のプログラム(8月)までの5ヶ月間は里山がぐんぐん育つ季節です。夏のプログラムでは保護柵の成果がどのくらい上がっているかの調査もすることになります。

深山:みやま

shikimori004.jpg「深山:みやま」までは噺野からバスで向かいますが、そこは原生林ではありません。日本の山は昔から人々の手が入って大切に守られてきました。特にこの地域は、林業が重要な産業です。地元の人々の確かな才覚が森を豊かに育み、良質の木材を生産し、財を生み出して地域を豊かにしていくという、最も基本的な産業の姿を、自分の体で確かめることができます。特に近年は安い輸入材によって、日本の林業は危機に瀕しているといっても過言ではありません。その中で、林業家の方々がいかに工夫をしてよい木材を生み出しているのかをしっかりと確認してほしいと思います。

「志木の森」のプログラムでは、植樹、下草刈り、枝打ちといった基本的な林業体験を行ってきました。急傾斜の山肌にしがみつくようにして、春には植樹、夏の暑さの中で下草刈り、これらの森での仕事を、身をもって体験します。また、その発展として、地元の林業家の実験プラントや製材の工程、地元の木材をふんだんに用いて建てられたモデルハウスなども見学します。

森のセミナー

「森のセミナー」は、「森」をテーマにして、様々な角度から専門家が講義をします。知識として森を学ぶことも、知恵として森に学ぶこともどちらも必要な学びです。中学生や高校生のころだからこそ考えたい「生きるための知識と知恵」は、学校の教室とは違う場所だからこそ染みこむでしょう。実際に「里山」や「深山」で体験した森について、さらに深くとらえ直す機会です。

shikimori005.jpgまた、「志木の森」は、日本の歴史や信仰と深くつながる伊勢と熊野との間にあります。伊勢神宮や滝原宮、熊野大社への熊野古道などが間近です。その山や森は信仰の原点であり、歴史の起源でもあります。宮崎駿監督の「となりのトトロ」や「もののけ姫」に描かれているような人間と自然との共生の問題が、信仰と結びついて生きている場所です。伊勢参宮や熊野古道ウォークのプログラムと連動して、「森のセミナー」でさらに深く、日本人の魂を実感することになるでしょう。

「志木の森」のよいところ

「志木の森」のよいところを、次のようにいくつか挙げておきます。これからも多くの皆さんが、「志木の森」に参加されることを願っています。

  1. 一貫教育各校の垣根を取り除き、交流を深めることでの塾生の知的連携が深められる。
  2. 普段できない体験学習を通して、より実学的な知識や知恵の獲得とその活用が図られる。
  3. 実際に森林の中での調査や活動を通して、具体的な生態系の働きを間近に見聞できる。
  4. 生態系と林業との関係を学ぶことで、現在人類が抱えている地球温暖化やエネルギー問題を深く見つめ直すきっかけとなる。
  5. 伝統的な産業である林業を、木工体験などを通して、創造的・実践的に学ぶことができる。
  6. トレッキングやカヌー体験を通して、森林をもとに構成される自然をより一層身近に感じることができる。
  7. 伊勢神宮や熊野古道などの伝統的な信仰の姿に直接触れることによって、日本の伝統文化や原風景を再認識することができる。
  8. 身近な自然から専門的分野へのパースペクティブを実感しながら、学習を自己組織化できる。
  9. 個別的な教科教育が、「志木の森」を通して、総合的な知識として有機的につながり合って、より高次の学習体験が可能となり、大学での専門教育との連携が図られる。
  10. 森林を通した学習によって、行き詰まりを見せている近代の産業社会を超えていくためのヒントが得られる。

※以上は、夏目健太郎君(2013年度「志木の森」実行委員長:64期卒)の書いた文章をもとにしました。


2013年度志木の森ツアーアルバム

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