2019年12月17日(火)、慶應義塾大学三田キャンパス西校舎ホールにおいて、第127回志木演説会が開催されました。

 今回は、大坪悦郎氏(NHKエンタープライズ制作本部エグゼクティブプロデューサー)を講師にお迎えして「プロに学ぶ いまやっておくべきこと」という演題でご講演いただきました。

 大坪氏はNHKで「プロジェクトX」などの制作に携わり、現在は「プロフェッショナル 仕事の流儀」の制作統括を務めています。この番組は2006年に放送開始し、「さまざまな分野の第一線で活躍中の一流のプロの「仕事」を徹底的に、掘り下げる新しいドキュメンタリー番組」(番組ホームページより)として幅広い層から支持されています。スガシカオの歌う主題歌「Progress」は誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。会場でも、ほとんどの生徒がこの番組を知っていました。

 講演は実際にこの番組を見るところから始まりました。まずは声優の神谷浩史の回。「進撃の巨人」の主要キャラクターの声など、多くのアニメーション作品を舞台に第一線で活躍している方です。番組の中では、アニメ作品の監督の要望に応えて細かく声のニュアンスを変える姿や、声を演じるために思い悩む様子が紹介され、特に「この仕事に上がり(完成)はない、だからこそできる限りのことをして悔いを残さないようにしなければならない」という強い思いを語る場面は印象的でした。大坪氏によれば、常に厳しい表情を崩さず、監督から良い反応を得ても笑顔を見せることはなかったといいます。自分に才能があるとは思っていないといい、自信のなさと闘うために努力し続ける非常にストイックな人物ということでした。

 このほかにも番組の映像を見ながら、大坪氏は「いま、やっておくべきこと」として、①「一生懸命、やったか?」と問うこと、②「自分を、きちんと知る」ということを挙げました。これらはまさに紹介されたプロフェッショナルたちの姿が語っていたことですが、氏は高校生のうちにこうした助言を受けたかったと思っているそうです。また、「逆境でこそ自分の基本に立ち返れ」「短所や弱点は克服しきれないので、長所を伸ばす」「「知る」ことよりも「感じる」ことを優先してみる」などのアドバイスがありました。中でも、「自分にとって重要でない情報を無視しない」というお話は、世間の風潮や狭い常識に閉じこもらないという点でも重要なものであったと思います。

 講演後の質疑応答では、取材したプロたちに共通する点として「集中力の高さ」「あきらめずに壁を乗り越えようとする」といった点を挙げていました。「「チャレンジしろ、でも失敗するな」という大人は信用してはいけない」という言葉は、将来の就職後まで生徒たちの記憶にとどめてほしいと思います。一方で、「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組のもたらす影響の功罪について問う質問も飛び出し、志木高生の批評的なものの見方の確かさを感じさせられる場面となりました。

 講演のあとは、恒例の3年選択授業「芸術A」の合唱の発表がありました。今年の曲目は「いざ起て戦人よ」「なんでもないや」「くちびるに歌を」「塾歌」でした。また、SGLIに参加した3名による成果報告がありました。今年のテーマは"moral courage"(道徳的勇気)で、志木高の生徒たちは「hikikomori - 引きこもり」という主題で挑んだとのことです。さらに、ウィンチェスター・カレッジで派遣留学生として学んできた丸山剛典君の体験談と留学の意義についてのプレゼンテーションには、生徒たちも大きな興味を示していました。最後にはオーストラリアから本校に来ていた留学生、ミッチェル君の日本語による挨拶がありました。

 次回の第128回志木演説会は2020年7月を予定しています。