2021年度の志木演説会は感染症予防の観点からオンラインで実施しました。講演者と各教室をオンラインで接続し、生徒はホームルームに分かれて講演を聴き、質疑応答も行いました。

【第130回】

 2021年7月13日(火)、第130回志木演説会が開催されました。なお、今回はCOVID-19の感染拡大への懸念から、志木演説会初の試みとしてZoomを用いた講演となりました。講演者としてお招きしたのは、東京工業大学名誉教授にして現在は大学院大学至善館教授でもいらっしゃる、社会学者の橋爪大三郎氏です。橋爪氏は専門の社会学を中心に非常に多くの著書を出版されており、その幅広い研究の中から本講演では「宗教で読み解く世界」と題して、世界の四大文明の基礎にある4つの宗教の基本発想に関して、次のような解説をしていただきました。

 まず宗教が「一神教」と「多神教」に大別されることを確認した上で、前者の代表例であるキリスト教とイスラム教の共通点と相違点を説明していただきました。特に、同一の神を信仰している両宗教がそれでも対立する争点として、イエスの神性をめぐる見解の違いについて解説していただきました。続いて、そうした一神教に対して多神教の代表例であるヒンドゥー教が取り上げられ、その固有な発想として因果律に関する解説をしていただきました。最後に儒教が取り上げられ、同宗教がキリスト教・イスラム教・ヒンドゥー教と異なる点に「人が人を支配することを正しい」とする発想があることを指摘していただきました。

 こうした4つの宗教の基本発想に関する解説を経て、講演の締めくくりとして橋爪氏からは志木高生に向けて、「宗教」という視点で社会を捉え直すことの重要性、そしてこの視点こそがキリスト教の副産物とも言える「近代社会」に対してイスラムやヒンドゥーや儒教の文明圏が台頭し始めている21世紀の新たな社会動勢を読み解く大きな鍵となる、というメッセージが伝えられました。

 橋爪氏の熱意ある講演に応えるように、志木高生からも、講演後の質疑応答はもちろんこと、講演中にも橋爪氏に向けての多くの質問が投げかけられましたが、橋爪氏はその一つ一つに誠実かつ明晰に応答してくださり、非常に内容の濃い演説会となりました。

【第131回】

 2021年12月10日(金)、第131回志木演説会が開催されました。COVID-19オミクロン株による感染再拡大への懸念から、今回も第130回に引き続きZoomを利用して実施しました。

 今回ご講演をいただいたのは、慶應義塾大学名誉教授で国際医療福祉大学市川病院病院長の大谷俊郎氏です。「スポーツ医学講座―スポーツ医学と「三つの宝」―」と題して、4パート構成(Part1: スポーツが与える三つの宝、Part2: 志木高生とスポーツ、Part3: 膝のスポーツ外傷、Part4: 成長期の骨の健康)でお話をいただきました。

 Part1では、「三つの宝(練習で不可能を可能にする体験、フェアプレーの精神、生涯の友)」について触れる中で、在学中に読んで欲しい2冊が紹介されました。特に小泉信三先生の著された『平生の心がけ』は、ぜひ読んでほしいとのことでした。Part2では、志木高生に向けて6つの項目が提示されました。①一番大切な時期に大切な仲間に出会えるのが一貫校生ならではのメリットである。②幼稚舎で「縄跳び」が重視されるのは努力で報われる種目だからである。③「結果が出る」という利点を持つスポーツを通してしか学べないことがある。④スポーツだけでは不十分なことを今から理解することが大切である。⑤スポーツは教育や相手の尊重において大切なツールである。⑥フェアプレーの精神が重要である。これらは、人間形成にスポーツがいかに重要かを示しています。

 Part3では、ACL(前十字靭帯)断裂のリスクと予防について、専門的な研究に基づいた解説がなされました。ACL断裂のリスクファクターには、視覚の影響、Dual Task(二重課題)、疲労の3つがあり、特に疲労回復には栄養改善が重要であるとのこと。これが、怪我予防やパフォーマンス改善にとても有効だそうです。Part4では、成長期の骨の健康についてお話しされ、40年後の骨粗鬆症を予防するにはまさに思春期である今、運動をすることが重要であること、そのためにもスポーツ嫌いな子どもを作らないようにすることがいかに大切であるかを語られました。

 大谷氏はとても魅力的にスポーツ医学について語られましたが、最後に志木高生に向けて「自分の目が輝くことに邁進してほしい」という言葉で締めくくられました。あわせて、「井の中の蛙、大海を知らず」という諺には「されど天の高さを知る」という言葉が続くと話され、限られた世界で努力をすることは無駄ではない、というエールも送ってくださいました。

 次回の第132回志木演説会は2022年7月を予定しています。