井澤 智浩

校内の自然から学ぶ

persimmon.JPG眼下に眺める柿畑。橙色に熟しきったその実は、しかし半分以上は収穫されない。それをついばみに来る野鳥が賑やかだ。その向こうには憩いの広場。芝を載せただけ。平たく整地しないのがいい。その奥に広がる竹林。まさに昭和の原風景。ここは教室棟4階、私の担任する教室からの眺め。この学校で一番好きな景色である。

izawa01.jpg私の担当する生物の授業で、まず、春先に行う実習がある。「タンポポの分布調査」である。タンポポには、もともと日本にある在来種(カントウタンポポ)と外来種(セイヨウタンポポ)とがある。埼玉といえど、学校を一歩出るともはや外来種ばかりで、カントウタンポポを見つけるのは難しい。ところが校内にはまだ在来種がたくさん見られるのだ。校内の白地図を配り、すべてのタンポポの数を数え、プロットし、両者の分布を調べてもらう。「なんでタンポポ?」と面倒くさがる生徒たちを無理やりにつきあわせる。そのうち何人かの生徒はやり抜いてやると意地を見せる者が出てくる。きちんと調べぬいた生徒は、必ず達成感を得たという感想をレポートにくれる。報酬も何もない作業で得る達成感こそ、最も誇り高き達成感と私は思う。そしてきちんと調べた者だけが、両タンポポの分布が決してランダムではなく、秩序をもつことを見いだすことができる。そこから、なぜ世間でカントウタンポポが消滅して行ったのかを考察することもできるのだ。

Dandelion2.jpg何の仕込みもやらせもない。答えを誘導することもしない。私がやっていることは、ただ私自身、20年間、校内の自然を観察して気づき感動したことをそのまま生徒たちに見せて、あわよくば感動を共有したい、それだけである。

世間は環境問題と騒ぐけれど、ヒトの視点でいる限りそれは永遠に解決しないだろう。タンポポや鳥やその他いろいろな生物の視点で、校内を見る、街を見る。それを経験したここの生徒たちが世界を見ることで、いつか人類の抱えた諸々の問題が解決していくと私は信じている。

その鍵となる小さな自然がこの学校には確実にある。

井澤 智浩(いざわ ともひろ)
担当教科:理科 生物部部長、庭球部副部長

(2012年12月)