大垣内 暖人
何て言ったの!?
と言ひて鼻かむ僧の夜寒かな
(高浜虚子)
晩秋の寒々とした夜に、ある僧が、鼻をかみながら何か言ったようです。しかし、何と言ったか、この俳句にはそのセリフの部分が書かれていません。あなたは、省略されたその部分にどんなことばが入ると想像しますか?志木高生にも聞いてみました。
- 「病は気から」
- 「今日もお疲れ様、自分」
- 「誰かが私の噂でもしたのかな」
- 「そろそろ月見より、コタツで団子の季節かな」
- 「次こそシュート決まるかのう(ゴミ箱にシュート)」
- 「こんなに月がきれいだと、寒くても外に出たくなるものだ」
- 「寄る年波と朝晩の寒さには仏の功徳も苦戦しているようでございますなぁ」
「鼻をかむ」、「僧」、「夜寒」の3つの語を手がかりに、いろいろなセリフが浮かんだようです。少し極端な例ではありますが、この句は俳句の特性をよく表しています。それは、作者の表現したいことをすべて盛り込むのではなく、一部を示すにとどめ、読者に想像させる余地を残しているという点においてです。俳句はこの「余白」が大切です。それはまるで、池に投じた石が最初は一点を刺激したのみだったのが、じわじわと波紋状に広がりをみせていくのに似ています。俳句に限らず、日本の伝統的な文化は、「余白」を好みます。日本人の美意識ともいえるでしょう。
たとえば、どんなものがあるでしょうか。つづきはまた授業で。
大垣内 暖人(おおがきうち あつと)
担当教科:国語 剣道部部長
(2013年10月)